
会場の席がほとんど埋まっている。ワークショップに対する参加者の期待が高いことが感じられた。参加者は、日本からが半分以上を占めるが、インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、インドネシア、韓国、香港、中国、などからの参加もあり、アジア諸国に共通する、「水」の民営化問題と、オルタナティブの可能性について、考える機会になったのではないだろうか。
ワークショップは最初のスピーカー、ヘマンサ・ウィサナゲさん(NGO Forum on
ADB、フィリピン/スリランカ)から、アジア諸国で問題が大きくなっている、水の民営化問題の概要と、ADBの関与についての説明がなされた。彼によると、ADBにとって、水に関連した事業への融資は重要な位置を占めており、途上国における水道事業の設備投資などを中心に、大きな額の融資が行われているとのことだ。ADBの主張では、水は商品であり、価格が課されて売買されるべきであり、貧富の差に関係なく、利用者は金を払わなくてはいけないと主張する。それに対して、ヘマンサさんはこう主張した。「水は政府・国家の所有物でなく、ましてや企業が商品として販売するものでなく、人々のものであるはずだ。水から私企業が利益を得るということはおかしいのだ」
続いて、アナ・マリア・ネメンソさん(債務からの自由連合代表、フィリピン)から、マニラにおける公営水道事業体が民営化された事例についてのお話しがあった。民営化前は、民営化されることについて楽観的な側面だけが説明されていたが、実際民営化されてみると、価格高騰、水供給サービスの質の低下と、それによる感染症発生、水道料金の未回収による歳入減退、債務が増加、設備投資の巨額化を招いたことが報告され、「政府が主張した『民営化=効率化』が虚偽であったことが明らかだ」と彼女は締めくくった。
マニラのケースを、労働組合員の立場、労働者の立場からのお話も伺った。ロベルタ・F・エスティモさん(マニラッド・ウォーター管理者組合 (MWSA)代表)から、マニラにおける水道事業の民営化にともなう、労働者への影響について発表された。現地労働者の賃金カットだけでなく、現場労働者が大量に解雇される。その一方で、フランス企業本国からの海外駐在員への法外な給料が払われていた。無分別な資源や設備の購入によって負債が増加した現実。技術者が減らされる中で、水質が低下し、上水にマンガンが発生したケースも報告されたという。
続いて、アジア二大都市における民営化のもう一つの事例、ジャカルタからの報告がなされた。ダメリア・ハシブアンさん(SP PDAM−ジャカルタ特別州上下水道労働組合委員長)から、水道事業の民営化が労働者と利用者にとってどういう意味があるのかについての報告があった。民営化後、民営化前の公営水道事業体PAN
JAYAで働いていた労働者は、委託された民間企業に出向という形を取ったが、彼らの待遇は、民間企業に直接雇用された人々よりも低いことが明らかになったという。
では、ジャカルタを含むインドネシアでは、「民営化が唯一の選択肢だった」のだろうか?インドネシアのNGOで活動する、ハモング・サントーノさん(クルハ−インドネシア水の権利連合、コーディネイター)は「そうではないはず」と語る。彼は、インドネシアでは、農業支援のための設備投資が長年行われてきた一方で、水道事業に対しての投資が十分行われていなかったのが現状であり、まだまだ改良の余地があったことを指摘する。それが、ADBの介入により90年代から公社の民営化が始まったのだ。これによってジャカルタでは、貧困層にとって飲料水へのアクセスがますます悪化し、富裕層による不正な地下水利用が生じる、という不公平な結果となった。これに対して、インドネシアのソロという公営水道事業体の運営は成功していると言われている。水を人々に届けるという使命は、民営化では達成できない、と彼は語る。例えば、うまく運営されている公営水道事業体が、そうではない事業体を支援する公公連携などの可能性について言及し、コミュニティが的確に介入することも含め、「公共」的管理、「公共」による所有と管理の分離や、地域と公共事業体間の連携など、具体的なオルタナティブを提示することが重要だと言う。
スリランカにおける水事業民営化問題について、スラジャン・コディティワクさん(グリーンムーヴメント、コーディネイター)からお話があった。スリランカでは、現時点水事業民営化の事例はないが、その計画は進んでおり、反対運動も起きている。1996年から国際金融機関である世界銀行やADB、JBICなどが民営化の圧力をかけており、それ以降、スリランカでは水管理省などの国の水政策に関わる機関が設立された。これらの機関が水政策に関する法律や制度などを政府に求め、そのための援助も行なっている。スリランカはADBとJBICから技術援助資金を得ており、公衆衛生に関しては世界銀行からも援助されている。スランジャンさんは、この点で政治家や官僚と援助機関との癒着といった腐敗問題があると指摘した。また、2004年の津波災害への復興支援として世界銀行やADB、JBICからの支援があり、その負債を返還するために民営化が提案された。現在も世界銀行を中心として、スリランカでは水管理プロジェクトへの援助が実施されている、との報告があった。スリランカ政府の提案する水政策は、水道民営化をすることで水を経済財として扱い、自由な水市場を推進するというものである。そのために、政府は水の管理権や水の使用権利を法制化しようとしている。それに対して、2000年から市民団体らが反対運動を積み重ねており、スランジャンさんの所属するグリーンムーヴメントは、コミュニティを巻き込んだキャンペーンや、多言語での情報提供、法的アクションなどの活動を行なっている、と締めくくった。
アジアの一例としての日本の事例報告が、久保田和尊さん(全日本水道労働組合書記長)から行われた。「日本における水道事業民営化攻撃の現状と闘い」と題したお話では、「水道事業の民営化」が海外の発展途上国の話しではなく、日本でも進行しつつあるという警告がなされた。日本では、憲法25条の生存権の一環として「水道法」が定められていて、地方公営企業のもと水道事業が運営されてきた結果、97%と高い水道普及率を誇っている。ところが最近規制緩和の波に乗り第3者委託制度で民間企業にも事業の一部を委託できるようになり、最近の指定管理者制度では運営自体を委託できるようになった。佐賀で指定管理者制度=実質民営化計画が持ち上がったが、それは地元の市民や労働組合の運動によって中止に持ち込まれた。しかし、岐阜県高山市で、市町村合併とともに指定管理者制度が導入され、今後も少しずつではあるが導入が検討されることが懸念されている、との説明があり、今後、国際的にも連携していく必要がある、と語った。
その後、ADB総会に併せて刊行された、『世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして』(作品社、2007年5月、佐久間智子訳)についての紹介が、岸本聡子さん(トランスナショナル研究所)からあった。90年代に導入された水道事業の民営化だったが、各地の人々は大きな反対運動を繰り広げてきた。アルゼンチンのブエノスアイレスやウルグアイ、ボリビアのコチャバンバやエルアルトなど、グローバル水企業を追い出すことに成功した地域もある。そういった世界の「オルタナティブを模索する」経験は現在進行中だし、それを広め、共有し、そして再現していく必要がある、と語った。
上記8人からの発言を踏まえ、質疑応答とディスカッションが行われた。残念ながら短い時間しか取れなかったが、会場からのいくつかの意見・質問を紹介したい。「マニラ水道が再民営化されたとき、市民からの反対運動はなかったのか?」、「日本の水道事業体は、国際貢献として公公連携を進めていく用意があるのか?」などだ。
民営化問題はどの国でも類似している。民営化を進めるのは国際金融機関、政府、多国籍企業など。オルタナティブを議論することも重要だが、どうやって民営化を阻止するかと、そのための行動についても話し合う必要があるのではないだろうか。
「部屋にいても民営化は食い止められない。道やどこかでまたお会いしましょう!」
【参考資料】
■ ワークショップでの配付資料はこちらからダウンロードできます。↓
☆☆ 日本語資料 Japanese ☆☆
■ フィリピンのMWSS民営化の呪い: 民間経営の失敗と労働者の災難(PDF)
ロベルタ・F・エスティモ /マニラッド水道監督者協会
■ ネパール水民営化: ADBの役割、質の高い水サービスを求めるPSI、そして公共の水管理(PDF)
ビオレタ・P・コラール/国際公務労連研究ユニット
■ 日本における水道事業民営化攻撃の現状と戦い(PDF)
久保田和尊/全日本水道労働組合・書記長
☆☆ 英語資料 English ☆☆
■ Water Privatization and ADB, Its Impacts and Responses from Peoples' Movements(PDF)
By Violeta P. Corral, Public Services International Research Unit (www.psiru.org)
■ Nepal Water Privatization: Role of ADB and PSI's Call for Quality Water
Services and Public Water Management (PDF)
By Violeta P. Corral, Public Services International Research Unit (www.psiru.org)
■ Current Situation of Water Privatization in Japan and Our Struggle Against It(PDF)
By KUBOTA Kazutaka, Secretary General, ZENSUIDO (All-Japan Water Supply Workers' Union)
■ Workers as Key Stakeholders in the Water Sector & Building QPS and PUPs(PDF)
By Victor Chiong, President, Alliance of Government Workers in Water Sector
(AGWWAS, Philippines)
■ The Curse of the MWSS Water Utility Privatization in the Philippines: Private Mismanagement And Workers' Woes(PDF)
By Roberta F. Estimo - President, Maynilad Water Supervisors Association
(MWSA)
■ Jakarta Water Privatization: Workers Campaign to Bring Back Water in Public Hands(PDF)
By Dameria Hasibuan, President, SP PDAM Jakarta, Indonesia (Municipal Water
Supply Workers Union of DKI Jakarta)
■ Water Privatization in Indonesia and the Chance of PUPs as Alternatives(PDF)
By Hamong Santono, People's Coalition for the Right to Water / KruHA
■ Problems of Water Privatization and Responses in Korea(PDF)
By Korean Government Employees' Union (KGEU) and Joint Action against Water Privatization
■ Water Privatization and Employees Struggle in Nepal:In Search of Alternative page01 02 03 04 05 (PDF)
By: Santa Kumar Bohara (Vice-President)Nepal Water Supply Employees Union
(NWSEU), Central Committee, Kathmandu
◆その他、ワークショップで取り上げられたイシューに関連した参考資料:

『世界の〈水道民営化〉の実態―新たな公共水道をめざして』(作品社、2007年5月、佐久間智子訳)⇒
https://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/shakai/tanpin/21295.htm
コーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリー(CEO)/トランスナショナル研究所(TNI)水プロジェクト
http://www.tni.org/water
http://www.waterjustice.org/
■ 共催団体のウェブページ
コーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリー
http://www.corporateeurope.org/
債務からの自由連合・フィリピン(FDC)
http://www.freedomfromdebtcoalition.org/
ジュビリーサウス
http://www.jubileesouth.org/
NGO Forum on ADBの水問題のページ
http://www.forum-adb.org/campaigns/Policy-water.html
国際公務労連(PSI)
http://www.world-psi.org/
http://www.psiru.org/
トランスナショナル研究所(TNI)
http://www.tni.org/
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